投資という名の長い旅

インデックスファンド、米国ETFを活用した長期投資で、2024年1月にセミリタイア、FIREを達成しました。市場に居続けながら、FIRE生活を楽しんでいきます。

小熊 英二著 『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』を読んでみました

 社会学者で慶應義塾大学総合政策学部教授である小熊 英二氏の『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学講談社現代新書を読んでみました。この「日本社会のしくみ」では、日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」がどのように出来上がってきたのか、特に雇用の面にフォーカスして、歴史的事実と豊富な参考文献に基づいて、解き明かしている本です。

 

https://www.amazon.co.jp/日本社会のしくみ-雇用・教育・福祉の歴史社会学-講談社現代新書-小熊-英二/dp/4065154294/ref=tmm_pap_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=&sr=

 

序章では、日本社会の構成原理に切り込みます。

①学歴が重要な指標となっている。但し、重要なのは学校名(有名大学出身がどうか)であり、何を学んだかは重要ではない。

 

②次に年齢や勤続年数が、重要な指標となっている。但し、それは一つの企業での勤続年数であり、他の企業での職務経験は評価されない。

 

③その結果、都市と地方という対立が生じる。何を学んだかが重要なら、首都圏の有名大学出身である必要はない。

 

④そして、女性と外国人は不利になる。女性は結婚と出産で、勤続年数を中断されがちであり、また外国企業での職務経験が評価されないなら、外国人は入りにくい。

 

こうした「日本社会のしくみ」、日本型雇用慣行が、現代には大きな閉塞感を生んでいます。女性や外国人に対する閉鎖性、正規と非正規との格差、転職のしにくさ、高度人材獲得の困難さ、長時間労働と生産性の低さ、ワークライフバランスの悪さといった多くの問題を引き起こしています。働き方改革が叫ばれているにもかかわらず、社会はなかなか変わらない、何故なら、今の雇用慣行は経営側の裁量を抑制するルールとして、労働者側が歴史的に達成してきたものだからであると、著者は主張します。

 

日本では、欧米のように職務の明確化や同一労働同一賃金といった「職務の平等」を求めなかった代わりに、終身雇用や年功賃金といった「社員の平等」を求めたのです。そこでは採用、昇進、処遇における不透明さは、終身雇用や年功賃金のルールが守れらる代償として、経営者側、労働者側の「取引」として容認されてきたという歴史的経緯があるのです。

 

本書の最後では、分かりやすいエピソードとして、スーパーの非正規雇用で働く勤続10年のシングルマザーが、「なぜ昨日入ってきた高校生の女の子と同じ時給なの」と相談してきた例が挙げられています。

 

著者は3つの対応策を紹介しています。

①賃金は労働者の生活を支えるものであり、年齢や家庭環境を考慮すべきで、高校生と同じ賃金なのはおかしい。

 

同一労働同一賃金が原則なのだから、高校生と同じ賃金なのが正しい。

 

③賃金が高校生と同じなのはやむを得ない。賃金ではなく、児童手当といった社会保障政策で解決すべきである。 

 

戦後の日本は①を選択してきました。著者は③が望ましいという見解です。

 

私の見解では、②はアメリカ型の資本主義社会、賃金は仕事に対する対価のみであり、社員の属性(性別、年齢、国籍)は一切考慮されません。賃金を上げたければ、スキルを身につける必要があり、そのための教育機会は豊富で、社会に出てからも、大学・大学院に通ってスキルを身につけることが普通に行われています。その代わり、公的な社会保障は極めて乏しい小さな政府の社会です。③はヨーロッパ型の資本主義社会、職務の平等、同一労働同一賃金は追求しつつ、手厚い社会保障政策がとられている。社会保障は企業が担うのではなく、政府が担うべきという考え方です。その代わり、税金(特に消費税)は高い国が多いです。

 

③は財源の問題さえクリアできれば、何らかの増税が必要ということになりますが、比較的取り組みやすい政策です。②は年功ではなく、職務に賃金を結びつけるという大きな変革が必要になります。社会に出てからも、資格・スキル・学位を取得できるように大学・大学院のあり方も変えていく必要があります。就社から本当の就職になるよう、高校生位の段階からキャリア教育も必要になります。時間が非常にかかるというのは間違いありません。③に取り組みながら、②の方向に時間を掛けて取り組んでいくことが、今後の日本社会に必要な雇用政策ではないでしょうか。

 

何が正解というのはありませんが、色々な気付きがある面白い本だと思いました。日本社会のあり方、雇用について考えてみたい方にはお薦めしたいと思います。

 

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